Acousphere Live 2016.10.11 吉祥寺Star Pine's Cafe

2016年10月11日(火曜) 吉祥寺スターパインズカフェにてスペシャルライブイベント「Acousphere with Friends」を開催します! 
Acousphere Recordに所属するアーティストが一同に集うライブをお楽しみください!
日にち:2016年10月11日(火曜)
場所:吉祥寺スターパインズカフェ 東京都武蔵野市吉祥寺本町1-20-16 B1
出演:Acousphere / Acoustic Sound Organization / Aerial / Sonascribe
時間:Open 18:00 / Start 19:00
前売り ¥3,900+1drink / 当日 ¥4,900円+1drink
詳細はこちらをご覧下さい!

2011年6月21日火曜日

河岸忘日抄

堀江敏幸さんの
《河岸忘日抄》
面白いです。

素晴らしい文章で埋め尽くされている長編小説です。 

饒舌とか、ありきたりとか、言葉に溺れているとか 

常套などは感じさせない洗練された言葉の選択と 

配列はなるほどそう分析するのか、と感心します。 


ページを繰る度に今度はどんな社会を観る眼を 

展開してくれるのだろうかとわくわくする。 

読んでいるうちに 

そうかあ〜、そうだよねえと自分を弁護する? 

いやいや腑に落ちるという快感が居心地を良くする。 

毎日、この堀江ワールドに浸るのが快感になってくる。 


フランスのとある河岸に繋留されている船の持ち主 

と知り合いだったことから、思わぬ展開でこの船に 

住み着くことになった彼。 

自分と他人、自分と社会、自他を分けるいろいろな 

要素をこの船の持ち主や時折手紙をくれる枕木さん 

という人物とのおしゃべりの中に哲学的な分析を 

柔らかい日常の言葉で分析していく。 

そして、もうひとつ、その章ごとに出てくる文学 

を横糸にして紡いで行くこの見事さ、心地よさ。 


ディノ・プッツアーティの《K》という本では 

人生に、困難に、畏れ続けることの愚かしさを。 

クロフツの《樽》という本ではその樽をめぐる 

話しをこの船の大家がこの樽を扱う仕事だった 

ことから樽にまつわるエピソードがどんどん 

描かれる。 

そんな重い樽をどうやって運ぶのかという質問に 

大家はバカだなころがすのさと応えるあたりは 

ハッとしました。 

樽というものが今では日常的なものではない 

ことで、無関心になっていることからくる無知。 

堀江さんはこういう物に対する、特に古いもの 

に対する眼が深くてやさしいですね。 

彼のもののはずみはそういう眼で描かれています。 


チェーホフ全集の中の《スグリの木》では幸せは 

どういう状態ですか?という質問に大家が応える。 

わからん、しかし、幸せなるものを待つ権利は、 

私にだってあるはすだ。 


こんな風に彼が思い出す本を取り上げていくその 

中で生きることの意味をさがす過程が実に面白い。 


余命幾ばくも無い大家が彼に言います。 

いいか、きみはまだ若いほうに属する人間だ、 

けっして大勢にはつくな、多数派に賛同するな、 

たとえ連中が正しくともだ、こいつは屁理屈 

なんかではない、数が多いというだけで、それは 

まちがっているからだよ。” 


誰かに似ているなと思ったら、あの安曇野在住の 

作家の丸山健二さんに似ているとおもいました。  

しかし、堀江さんのほうが、柔らかい眼で社会を 

観ている分だけ、心地よいですね。 

これは小説というより、哲学に近いと思います。 

何度も読み返す本の中の一冊ですね。 

一回だけではもったいない。そして、この中に 

取り上げられている本も読んでみたいと思いました。