何十年も前に日曜美術館をたまたま観ていて、
初めてこの作家さんの名前を知りました。
この時にこの本の作家である川崎とおるさんが
高島野十郎との因縁を話していたことが妙に
印象に残りました。
野十郎の自画像と有名な?カラスウリの絵と
この川崎さんの偶然の邂逅の話が脳裏に残ったのです。
川崎さんは秩父の山で小脇にスケッチブックを抱えた
背広姿の紳士と立ち話をしました。
そのひと月後に上野の国立博物館にルーブル美術館展を
観に行くと、茶系の外套を翻すように出て来た彼に会います。
そして、その翌年渋谷のゴヤ美術展に出かけて、もう一度
出会います。
老紳士はゴヤの絵を説明し、その後近くの青山のアトリエ
に誘います。
後に高島さんは真顔で
『これはもう運命だよ。』
と言ったそうな。
画壇にも属さず、ヒトメを避けるような"遁世という過激な"
生き方をした高島野十郎。
しかし、この川崎という、いち文学研究者との因縁の出会いによって、
この野十郎の素晴らしい絵や激しい生き方が世に紹介されました・・・。
この本の表紙に載っている絵は『壺とりんご』
こういう絵を"静物画"とか、"STILL LIFE"とかいうそうですが、
野十朗は空海が好きで、かなり深く読み込んでいました。
空海の思想の影響とでも言えるでしょうか、この人の絵を観ていると
宗教心が染み出てくる感じがします。
こういう絵を写実主義という言葉ヒトコトで片付けられません。
でも、とにかく私は好きです、こういう作品が。