作家さんというのはタイトルをつけるのが上手い!
この作品はタイトルにひかれて買ってしまいました。
枕木という探偵とお手伝いの響子さんと依頼人の
《クマノミドー》さんが雷雨の日に事務所に閉じ込め
られている。帰るに帰れないという状況の中でこの
3人がそれぞれ勝手におしゃべりをしながら、依頼人の
相談事に触れていくのだが、なかなかその依頼の内容が
つかめない。
読んでいるうちにちょっとイラっとしてしまうのだけど、
合間に入る話題は結構面白く、人の日常を切り取って
こちらに考えさせる。
『熊野御堂さん、貴方の声を以前聞いた事があります。』
昔住んでいたアパートの隣にクマノミドーさんが尋ねて
来て、名前がユニークなので聞くともなしに聞いて、覚えて
いました。
『あれは貴方ではありませんか?』
離婚した奥さんと娘の行方を捜してほしいとの依頼なのだが
話しは依頼人の母親の数奇な境遇の話しに流れ、その母の
肖像画とともに手にはいった作家のオブジェの話しになる。
これが《燃焼のための習作》らしい。
堀江さんは物にたいする眼が細かくて、優しくて、表現が
素晴らしいのです。
《もののはずみ》はその才能を余す所無く表現した作品
です。その巧さはこの作品にも濃厚に出ていて、楽しい。
別の作品《河岸忘日抄》ではその哲学的なアプローチに
驚きました。そういう作家さんが書いたミステリーもの
という触れ込みでほほうと手に取ってみましたが、ミステリー
ではないですね。
後半やや興味が減退してきたのは否めませんが、この作家さんの
《河岸忘日抄》が一番いいです。
それにしてもどうしてこんなに化け文字になってしまうのか、
そろそろ買い替え時ですかねえ。