中学時代に読んで、忘れられない本の一冊に
なったのが、井上靖さんの《しろばんば》です。
井上靖さんが何かの理由で幼少時代をお妾さんと
土蔵の中で暮らす・・・
朝、眼を醒ますと『はい、おめざ』と言って、
口のなかに飴玉を入れてくれるのが、この
お妾さん。
この一事が強烈な想い出となって忘れられません。
今回の映画はこのしろばんばが重要な伏線と
なっています。
井上さんが作家となり、一家の大黒柱と
なって、奮闘している毎日の中で、母親が段々
壊れていく。この過程を樹木希林さんが見事に
演じています。
井上靖さんの役の役所広司さん、末娘の琴子役の
宮崎あおいさんも良い演技をしています。
宮崎さんは若いながら、ナカナカ良い味を出して
いて、チョット見直してしまいました。
役所広司さんの抑えた演技は泣かせます。
湯ヶ島の妹の処から、
『今、亡くなりました。』
という知らせ。
東京の家族全員が危篤の知らせを聞いて車の
手配をしているところ。
家長は泣きながら
『よく、やってくれた、ありがとう』
と、妹にお礼の言葉を言います。
私は、感極まって涙がボロボロこぼれて、椅子から
立ち上がることができませんでした。
井上靖さんの作品は私のなかで一番面白いなと
思ったのが、あまり有名ではない
『風と雲と砦』
ですね。もう、内容は忘れてしまったのに、
読んでいて活劇のようなワクワクするような
筋運びに、興奮状態で読んだ想い出があります。
この時代の作家さんは清潔で上品で骨太な
作品をのこしていますね。
こういう方がドンドンいなくなっています。