『小説家としてこれほど恵まれた病気はない
少し頭がおかしくて胸が悪いくらいがちょうど
良い。身体と一緒に病気も歳とるんだから、
病氣を乗り越えようなんて大それたこと考え
るな。』と慰められ、『うんと楽になった』
作家、宮本輝さんは友人の医者からこうアド
バイスを受けたそうです。
戦後の混乱期に度重なる事業の失敗で挫折
していく父親の姿を見て育った宮本さんは
貧しさと虚しさの中に生きてきた。
長ずるに結核を病み、入院をする。
子供の頃から"尖端恐怖症"でナイフを持つの
が怖い。インタビュアーの阿川さんも同じ気
があると意気投合する。
阿川さんが『小さい頃剣山の上に立たされる
夢を見ました。』と告白すると宮本さんは
『僕は剣山で平手打ちされる夢をみました』
と応酬する。
宮本さんは雑誌の編集者の時、不安ノイロー
ぜに陥り、会社を辞めます。
『錦繍』を書いている時、再びノイローゼが
ぶり返す。原稿用紙の角や万年筆の先が
怖くなり、一人で密室に入れず、奥様に横に
付き添ってもらいながら書き続けます。
阿川さんは書きます。
宮本さんの経歴も作品もどちらかと言うと
暗くて重い。しかしお話ぶりには暗さが
ちっとも感じられないのが不思議だと。
しかし、そういう稀有な境遇が直接的にも、間接的にも作品を生んだとは言えないだろう
か。
続きます。