ハナはインド人に恋をする。
ハナは今フィレンツエ近くの教会に隠れるようにして、
住んでいる。
いや、住んでいるのではなく、看護婦として、イギリスの
傷病兵を介護せねばならず、この戦火の中に残った瓦礫
だらけの教会で、全身火傷の余命幾ばくもないアルマシー
伯爵をたった一人で必死に看病している。
絶対に助からないと分かっていても、ひたすら痛み止めの
モルヒネを打ち、やっと手に入るスモモなどの果物を食べて
やっと生き伸びているそんな毎日。
ある日、この付近に埋められた爆弾を処理する一行がやって来る。
ドイツ人がこの付近に無数に埋めて行ったものを探索して
始末するという危険極まりない仕事。
その班の隊長がキップという美しい顔立ちのインド青年。
この青年の愛の表し方が秀逸。
ある晩、ハナが仕事を終わって、ドアの外に出ると、小さな
ロウソクの灯りがキップの寝泊まりする小屋の前まで
続いている。ハナはキップの胸に飛び込んでいく。
そして、バイクを走らせ、明け方の教会まで行く。
暗い教会の中に連れて行かれたハナはキップが差し出した
身体を乗せるベルトに身体を任せ、灯りを持たされて、
ロープに身を委ねる。キップはロープの端を持ち、ハナの
身体を持ち上げるとハナは狂喜する。
あんなに観たかった教会の壁画をこの暗闇の中で
灯りを寄せて見る事ができるのである。
下でロープを操るキップはハナを自在に赴かせて、
周囲の素晴らしい壁画を存分に魅せる事ができる。
何という至福。
何という愛。
男は女を喜ばせる為にある。
そんな気持ちにさせます。
これはこの映画のほんの一部、そして、この映画のハナは
ジュリエット・ビノシュ。
美しく、芯の強さを感じる女優さんですが、私は"ショコラ"
に出ている彼女しか知りませんでした。
この映画のハナの役はすばらしい。
この映画の本来の主人公はアルマシー伯爵です。
伯爵は"泳ぐ人の壁画"の発見者です。
1930年代の発掘で、この壁画が発見され、壁画は実際に存在して
いるのですが、映画のストーリーや人物はフィクションです。
素晴らしい映画ですね。